第3段階 その6

 僕がONした話を聞きつけると、メンバーから次々とお祝いの電話が来た。仲間ってありがたいなぁ。でも、正直言ってすぐに実感は湧いてこなかった。意外な形のONだったからかも知れない。

 しかし変化は確実に現れた。何よりも嬉しかったのは、ミーティングでようやく「塗る」側に立てたことだった。
 このあと、私は卒業生のサポートを受けながらも、2つのONを取る。心境の変化は確実にあったようだ。しかしまだノルマの半分。あと3人残っている。全員の合計も達成にはギリギリのペースだ。
 しかし私の頭の中は、「もういいよ、やめようよ」という自分がいた。前稿で触れた「エンロールしたくない自分」だ。この時期には、頭の中のかなりの部分を占めるようになった。私は「6人」というノルマをあきらめるようになった。

 最終日、つまり8月の最後の金曜日、私は仕事を終えて帰途についた。でも何かもやもやしたものを感じていた。自分はこのまま帰ってしまっていいのだろうか、電車に乗って考えていた。そして逆向きの電車に乗り換えた。目指すはセミナーのオフィス。そこで今の状況を聞いた。

 「実はもう達成している。でもみんな動いてるから、あなたもベストを尽くして」と言われた。その言葉を聞いて、私は仲間には悪いが、自分の中の清算をすることにした。そう、あの「キーマン」の親友と話がしたかった。
 私はもう、彼にエンロールはしなかった。ただ、心ゆくまで話したかった。彼もそんな私の気持ちをくんでくれたのか、はじめはファミレスで話していたのを、彼の自宅に場所を移してまで話につきあってくれた。

 明け方、睡魔に勝てず彼が眠ったのを見て、私は彼の家を出た。ノルマには達しなかったものの、彼と一晩語り尽くせただけで私は満足だった。一度自宅に寄り、セミナーに向かった。
 Nさんが来ない。ずっとエンロールに疑問を持ち続けていた彼女だが、やるからには最後まで出るべきだ。ましてや一度遅刻してみんなに許してもらっているんだから、なおさらだ。私は腹立たしかったと同時に「それ見たことか」と思った。

 実習はあるにはあったが、何をやったか忘れてしまった。申し訳ない。

 前にも話したとおり卒業式は公開で行われる。OB・OGが大挙押し掛け、しばし抱擁、そしてアシスタントからメンバーの紹介が行われる。意外にも私が一番先だった。彼女が言うには、「達成しなかったけど、いろんなことを学んだ人」。確かに、体験しなくていいものも学んでしまったのかも知れない・・・。

 すべてが終わった。メンバー・アシスタントともに打ち上げに行き、二次会ではカラオケで朝まで歌い明かした。

 このハイステージ、自分は何を学んだんだろうか。人の心?自分の心?

 辛い日々であったことは間違いない。ベーシック・ミドルでの体験とは明らかに異質なものだった。でも辛いなりに「よくもまあ没入したものだ」と振り返って思う。

 OBとなってから、何度かハイステージの卒業式に行った。抱擁のときに言う言葉は決まっている。
 「やっと終わったね」
 それは、私自身がハイステージを終えたときの素直な感想だったから。