第3段階 その3

 私のエンロールの日々は始まったばかりだ。とにかく、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるではないが、いろいろな人に声をかけた。大学時代の友達や、会社の先輩や後輩・・・。でも結果はまったく伴わなかった。いつまで経ってもONゼロ。それをセミナー仲間では、0の数字の形と、「まだ出てこない」というのを引っかけて、「卵」と呼んだ。そう、私はいつまで経っても卵だった。

 ある日、会社の後輩でもあるゼミの後輩を勧誘した。それからしばらくして、ゼミの先生と会った。当時私はとある学会の手伝いをしていたので、この日も仕事上の話をしたのだが、先生から「何か君が変な宗教に入っているという噂を聞くが」と切り出された。自分の顔からスーッと血の気が引いていくのがわかった。尊敬する先生からこんなことを言われ、私は必死で動揺を隠しながら、「あれは宗教じゃないんです」と言うのが精一杯だった。今振り返っても、あれだけの動揺をしたことはあまりない。それにしても、そう言われて動揺するということは、自分の中に確固としたものがないのかな、などと思っていた。

 またあるときは、会社の一年先輩を誘って飲むかたわら、エンロールをした。このときは、アシスタントにサポートをお願いしたりした。これも×。もう自分でどうやっていいのかわからなくなってきた。

 今回のハイステージで、是非とも参加させたい人がいた。ベーシックステージでキーマンとした親友だ。しかし、何度話しても結果は同じ。おそらく自分に絶対の自信を持っている彼は、必要性を感じなかったのだろう。
 今になって思えば彼は、顔を合わせれば勧誘話とわかっていながら、よく毎回私につきあってくれたと思う。この親友とは今も親交があるが、彼を失わなくて本当によかったと思うと同時に、友というのは何とありがたいことかと痛感する。持つべきものは友。

 しかしこのときの私は、とにかくONが欲しくて欲しくてたまらなかった。仲間がONを出すたびに、おめでとうと祝福する。しかし常にその裏には、また先を越されてしまったという焦りがあった。

 特に、ときおり開かれるミーティングの際、仲間が嬉しそうに塗り絵のマスを埋めていくのを見る屈辱は、耐え難いものがあった。自分も早くあっち側に立ちたい、そう思って来る日も来る日も学生時代の名簿を見てはアポイントを取ったりした。車を点検に出す際に、顔見知りのディーラーのセールスマンにまでエンロールをしたほどだ。それでも私は「卵の殻」を破ることはできなかった。

 私はだんだん疲れてきた。本当に自分はONを出すことができるのか。ミーティングに行く足取りも重くなっていく。できることなら行きたくない。仲間はみんな励ましてくれる。でも彼らはほとんど、もうONに成功している。この焦りを何にぶつければいいのか、私はやるせなくなった。
 自分の中にあった自信が、音を立てて崩れていくような気がした。私がこれまでしてきたことは間違っているのか?努力の方向が違うのではないか?そう自問自答しても答えは見つからない。とにかく今は動き続ける、それしかない。私は再び電話を取る・・・。