第3段階 その2

 グループ分けもノルマも決まった。次は、グループごとにセミナーを讃える寸劇をする。1時間くらいの猶予が与えられ、それぞれのグループがアイデアを絞る。

 予定の時刻、S氏が「せっかく皆さんがやる演技ですから、観客を呼びましょう。どうぞ!」みたいなことを言うと、ホールの扉が開いてたくさんの人がなだれ込んできた。セミナーの卒業生達だ。数十人はいる。
 こんなたくさんの人の中でやるつもりではなかったので、ちょっとした緊張と照れを感じながら演技をする。終わったらグループごとに記念写真。要するに、今回のハイステージメンバーの「お披露目」の場というわけだ。

 寸劇も無事終わり、これからみんながそれぞれの生活において「エンロール」をしていくのだが、ここでS氏からひとつの提案があった。「72時間ゲーム」だったと思う。これからまる3日間、72時間以内にどれだけのONが取れるかというゲームだ。それが終わる3日後に同じ場所でミーティングを行うという。

 私はすぐさまエンロールする相手の顔が浮かんだ。中学のときからの親友だった(ベーシックでキーマンにした友人とは別)。善は急げとばかりにホールと同じ会にあるオフィスの電話を借りて、友人にアポを取る。会う約束を取り付けて、「行ってきます!」と元気よく飛び出した。
 近所のファミレスでその友人と会った。今思えば、彼は私のただならぬ様子を察知していたのではないかと思う。私の勧誘の言葉を一通り聞いたあと、彼ははっきりと拒絶してきた。そればかりか、私の方が説教されてしまった。彼には珍しく、かなり怒っているようだ。「目を覚ませ」と言いたかったのかも知れない。私はといえば、彼からのきついフィードバック(面と向かって厳しいことを言うこと)を聞いて、「これがハイステージの厳しさだ。この困難に耐えなければならない」などと思っていたのだから、完全に脳天気というか、セミナーの思うつぼだ。ミドルステージの「フィードバックの実習」は、これの訓練だったのかな、などと思ったりもした。

 他のセミナーやメンバーの中には、○○時間ゲームというと、寝る間も惜しんで勧誘する人もいるようだが、私はそれははじめから放棄して、睡眠はちゃんと取っていた。この点は賢明だったと思う。

 結局3日間の間に、私は1つのONも取れなかった。

 3日後のミーティング。遠方のメンバー以外はほとんど出席している。そこにあるものが持ち込まれた。全体の目標数の数だけある塗り絵だった。アシスタントが作ったという。
 「この3日間でONできた人、ここに塗ってください。どうぞ!」とS氏が言うと、にぎやかなBGMが流れ、この3日間で勧誘に成功した人が塗り絵のマスを埋めていく。そしてシェア。それを見て、うらやましく感じると同時に屈辱に思った。自分も早くあちら側に立ちたい。

 こうして私は、エンローラーとしての第一歩を踏み出したのだった。