第2段階 その5

 さてストレッチの演目も決まり、明日に向けてどう演じるかを考えることになるが、何しろ「自分の殻を破ること」がテーマなだけに、それぞれにどうやったらいいか、とまどいがあった。本人を知らないのに間寛平をやるように言われた人、女性だから当然行ったこともないのにソープ嬢をやることになった人、妙に明るいインストラクターをするにも、明るさをどう表現していいかわからない人、様々だった。
 必然的にみんなが集まって、「どうやるか」を話し合うことになった。私はと言うと、借金取りなので、とりあえずヤクザをベースにやろうという大筋のシナリオも作りやすかったので、どちらかと言えばサポートする方に回ったが、ヤクザの凄みを出すにはどうすればいいか、というのは他のメンバーに教えてもらった記憶がある。
 この日の就寝は比較的遅かった。

 3日目は、ストレッチの準備から始まった。おおかたの道具はあらかじめ用意されているが、小道具やメイクをして、完成したら一人ずつその格好で記念写真。ここまでは和やかな雰囲気。

 さて本番。みんなが椅子に座ったあと、一人ずつ前に出てきて、「○○(ニックネーム)、▲▲をやります」と宣言。ここで前にも話した「2001年」の音楽が流れる。そのあと演技にはいる。笑わせる演目のときはまだいいが、そうでないときは、みんなただじっと見ている。重苦しい雰囲気だ。

 本人がその役を演じきったと思ったら、「完了です」と宣言する。それでOKかどうかはK氏が判断する。ダメなときは、「続けてください」と言われる。
 OKが出た場合は、アシスタントがあらかじめ参加者個々のために用意していたテーマ曲が流れる。全員が前に出ていき、ちょうど胴上げのように、演技者を横たえ、みんなの手の上に載せて、ゆりかごのように動かす。そしてその手を高く上に差し出し、演技者を持ち上げたところで、K氏が「あなたのパスワードはー?!」それに応えて本人がパスワードを叫ぶ、という流れになる。

 私も「極悪非道の借金取り」を演じた。演技の最初に、「好きな女の子が借金のカタに取られて、金を取り戻さなければ解放してもらえない」という場面を想像し、自己暗示をかけた。この暗示の時間が多少長かったので、K氏には、「どうしましたか?早くやってください」と言われたが、おかげで役になりきることができ、K氏からOKが出たときには、前日に手ほどきをしてくれたメンバーが、「ここまでやるとは・・・」と言っていた。

 この辺りまでは比較的順調にいっていたが、全部がそうだったわけではない。完了するのに3時間もかかった人もいる。役者志望の人なので演技力はあるが、それに頼って魂が込められていないと見たのか、いつまで経ってもOKが出なかった人がいた。演技とストレッチは別なもの、とK氏は言いたかったのだろう。

 かかった時間の長短はあったが、全員がその日にストレッチを終えることができた。自分が演技をしているときより、人の演技を見ている方が精神的にきつかったような気がする。