第2段階 その4

 続いての実習は、何と名前を付けていいのかわからない。「吐き出す実習」とでも言っておこう。かなり強烈なインパクトが残っている。

 フロアに体操用のマットが敷き詰められる。その上に2人一組になって正対する。一人は正座、一人は四つんばいで、互いに見つめ合う。
 実習は四つんばいの方が主に行う。K氏の指示で深呼吸を始める。目線は正座の相手の目を見つめたまま。呼吸を強くしていくように指示され、だんだん荒くなる。
 次に、吐くときに「アー」と声を出すように言われる。呼吸はさらに荒くなり、凄みが出てくる。
 頃合いを見て、K氏が叫んだ。「これまでの人生の嫌なこと、苦しみ、悲しみ、全部吐き出して・・・ハイ!」
 「アーッ、アーッ、アーッ、アーッ・・・」絶叫とともに、下に敷いてあるマットを力一杯ぶっ叩く。
 「怒りー!」
 「悲しみー!」
 「すべて吐き出せー!」
 K氏と、いつの間にか音響担当のA氏も加わって、私たちにもっと強くと促す。
 これをやっている間も、2人の視線はともに見つめ合ったままだ。私も(何度も触れて申し訳ないが)いろいろと悲しい思い出があるので、それを吐き出してしまいたいという思いで、声を張り上げ、腕を力一杯振り下ろした。
 どれくらい経っただろうか、もう精根尽き果てそうになったときに、終わりの合図がK氏から発せられ、みんな目の前の膝に倒れ込んだ。そして、その背中をゆっくりとさすってもらう。自分との戦いを終えたあとの癒しとでもいうか、心地よい感触だった。

 同じことを今度は逆の立場でやった。私が、今度は相手の絶叫を聞き、振り下ろす動作を見、そして背中をさすってあげた。
 あとから聞いたことだが、このときの私の形相と動作はかなりすごかったらしく、一緒にペアを組んだ人からは、「この人よっぽど辛いことがあったんだなあと思った」と聞かされた。

 セミナーは密室で行われ、時計もないので、時間はわからない。とはいっても今日はそろそろ終わりかなと思っていると、明日の実習の説明が始まった。

 明日は「ストレッチ」というものをやるという。これは一種の一人芝居のようなもので、K氏の話によると、振り子に例えると今の私たちは、始点から振り下ろされて、ちょうど一番下のところに達しているのだという。それを反対側に振り切らせるのがストレッチなのだそうだ。要するに今までにない役割を演じて「殻を破る」ということらしい。

 参加者一人一人が、K氏に「自分に欲しいもの、足りないものは何か」を聞かれた。私は自分では思いつかなかったのだが、紹介者が「S氏が『彼には力強さがほしい』と言っていた」というのを思い出し、力強さがほしいと言ったところ、「じゃあ、あなたは『極悪非道の借金取り』」と言われた。その他にも、ソープ嬢とかゴルゴ13とか妙に明るいエアロビインストラクターとかうんこひり出しどじょうすくいとか、なんじゃそりゃと突っ込みたくなるようなような「演目」が各人に割り当てられた。「大切なことは、それに『なりきる』こと」とK氏。

 ストレッチについてはまだいろいろあるが、長くなるので次回にする。