第2段階 その2

 ニックネームが決まると、その次は、「パートナー」選びとなる。ベーシックよりも人数が少ない分、グループのようなものか。ちなみに参加人数は15人くらい、アシスタントとトレーナーのK氏、音響担当を入れても部屋には20人くらいしかいない。
 パートナー選びもニックネームと同じく参加者の自由意思。パートナーにしたい人の前に自分から立つ。断ることもできる。まだみんなお互いのことを知らないので、かわいい女の子の前に男が集中する。私はといえば、それはベーシックのグループ分けで経験済みなので、今度は実利を考え男性にした。あとで思うと、これってさほど重要だったかな?と首を傾げていることだが、とにかくそのときは、セミナー期間の重要な相手ということで真剣だった。

 ニックネームもパートナーも決まったところで、全員が輪になる。K氏が「●●だと思う人は誰ですか。△△、□□、××・・・」と、ニックネームを読み上げる。そのニックネームの人が●●に当てはまると思ったら、手を挙げる。いわば、ベーシックの「向かい合って外見だけで思ったことを言う」やつの集団版といったところか。

 次は「フィードバックの実習」。2グループに分かれて各々半円状に座る。半円の中心には一人が立つ。そして、その立っている人に向かって、座っている人が、見て思った「ネガティブなこと」を次々と言っていくのだ。このセミナーではそれ以外にも、相手が自分について、面と向かって何か言うことを「フィードバック」と言っていた。
 口調は「〜な気がします」と穏やかだが、内容はかなりきつい(例:「愛がなくてもやっちゃうように見える」など)。当然参加者の私も矢面に立たされた。一番辛かったのがK氏の「人口調査にしか出てこないように感じます。頭数だけ」という言葉。最後は、「私のために正直に言ってくれてありがとう」と言わなければならない。当たっているものもあれば当たってないものもあるが、人間って、許される状況ならば結構ひどいことも平気で言えてしまうものなんだなと思った。

 その他にもいろいろ実習があったのだが忘れてしまった。申し訳ない。

 この日の最後の実習は、瞑想から始まった。
 「休暇を取って海外旅行に行く飛行機の中」という設定で始まる。日常の喧噪から解き放たれて、リラックスしている。青い空が広がる。みたいなことを言っていたと思う。私もまだ行ったことのない南の島を思い浮かべていた。
 状況が突然変わる。飛行機に異常発生。どんどん高度が下がり、墜落していく。K氏の言葉にも緊張が走る。「墜落します!」。すると、非常事態をあおるためか、私の近くでドン!と何かを叩く音がした。

 その狙いとは逆に、私はここで瞑想から醒めてしまった。あまりに近くでものを叩いたため、注意がそちらに行ってしまったのだ。もう一度瞑想に入ろうとしてもダメ。薄目を開けて横を見ると、みんな瞑想に没入しているように見える。
 「椅子の下に紙とペンがあります!最後のメッセージを書いて!」とK氏。見回すと、みんなせっぱ詰まった感じで文字を書きなぐっている。私も仕方がないので、ありきたりのことを書いた。「墜落します!墜落しまーす!」ドーン・・・と効果音。
 いくらかの静寂のあと、「奇跡的に助かりました。あなたは生きています」。ここで終了。このあと、何人かが前に出てシェアするのだが、「生きてて本当によかった」「命の大切さがわかった」という内容が多かった。

 私は途中で醒めてしまったので、シェアはしなかった。こういうときの心理とは不思議なもので、醒めてしまったことに罪悪感さえ持っていた。「オレはこの先やっていけるのか?」そんな疑問を感じたりもした。
 部屋に帰って、ルームメイトにそのことを告白した。返ってきた答えは、「それはそれで仕方がない」。少し救われた気がした。

 明日も早い。悩みを抱えていても仕方がないので、寝ることにした。