第2段階 その1

 5月の水曜日の夜、横浜のとある場所で4泊分の荷物を持って、私はバスを待っていた。ミドルステージの会場まで行くバスだ。他に待っている人は十数人〜二十人くらいか。

 バスが来て、無言で乗り込む。まだ来ていない人がいるので、もう少し待つようにいわれる。20分くらい待っただろうか。年は私と同じくらいのの女性が遅れてきた。Nさんとしておこうか。この人を見るにつけ、「一事が万事」という言葉を思い出さずにはいられないのだが、それはまだ先の第3段階なので、ここでは触れないことにする。参加者と思われる人を見渡す。私の知っている顔は二人だけ。つまり私が参加したベーシックステージからは私を含めて3人しか参加していないことになる。
 夜なのでどこかよくわからないが、会場となるホテルに来た。部屋割と、明日の集合時間を告げられた。私はベーシックで顔を知っていた二人と同部屋で、ちょっと安心。この日は何もせずに就寝。

 朝になった。窓の外には富士山が大きくそびえ立っている。どうやら静岡まで来たらしい。

 前日に指示された部屋で椅子に座っていると、このセミナーの社長・K氏が出てきて、「これから、みなさんで自由に、コミュニケーションを取ってください」。
 ご自由にといわれても、何をしていいかわからずまごまごしていたら、私のルームメイトの一人が、みんなと握手をし始めた。これをきっかけに場がだんだんと和やかになっていき、それぞれがパフォーマンスをしたり、輪になって、みんなどう呼び合おうか、などと話していた。

 頃合いを見てK氏が出てきた。これまでの私たちの動きを見ていて感じたことを言っていたのだが、何と言ったかは全然覚えていない。K氏は続いてベーシックのS氏と同じく注意事項を話した。これも内容はほとんど忘れてしまったのだが、ひとつだけ今でも覚えているのは、「セミナー終了後3週間は、参加者(アシスタント含む)どうしの性交渉はしないこと」・・・そんなに親密になっちゃうの?

 一通りK氏が話し終えたところで、このセミナーにおけるニックネームをつけることになった。ニックネームは自分で決め、以後はそのニックネームで呼び合うことになる。決まった人から名札にニックネームを自分で書き、みんなの前でその名前とつけた理由をシェア(発表)する。私もつけた。ベーシックのときにある女の子から、とある映画俳優に似ているといわれたのがきっかけだった(今ではその面影は微塵もない(泣))。
 自分でつけたとはいえ、今まで呼ばれたことのない名前で呼ばれるのは妙な気持ちだ。じきに慣れるのだろうが。
 今にして思えば、このニックネームをつけるというのは、セミナーにおける一種の「住民登録」のようなものだったと思う。前述のとおり、以後本名で呼ばれることはなくなり、すべてニックネームで呼ぶこととなる。つまり、セミナーという小さな世界においては、このニックネームこそが「本名」であり、その名前を持つことにより、初めてセミナー世界の住人として認められたことになるわけだ。

 セミナー1日目はまだ続くが、長くなるので次の文章に残しておく。