第1段階 その5

 ベーシックステージのあと、インタビューというのがある。これは時間を自由に設定できるので、会社帰りに寄ることにした。セミナーを終えた感想などを聞かれるのかなと思った。

 場所は横浜のどこかだったかと記憶している。インタビュアーは年上の女性、私の紹介者をも知っているという。私はベーシックステージで感じたこと、感動したことなどを素直に語った。自分のトラウマになっていると思っている、高校生活でシカトを受けた体験なども交えながら、自分にとって有益な時間であったことを話した。インタビュアーの女性は笑顔でそれを聞いてくれた。

 「ミドルステージはどうしますか?」女性が尋ねてきた。私はすぐには行くつもりはなかった。ベーシックステージで体験したことを日常生活で活かし、それでもミドルステージに出る必要を感じたときになってから考えようと思っていた。インタビュアーにもそれを告げた。
 「でも、それだけ多くのことを感じているのだから、早めに出ないともったいないですよ」と、女性はミドルステージ出席を強く勧めてきた。それはよく言われる「強引な勧誘」と言うよりも、こちらを持ち上げて、その気にさせるのが実にうまい勧め方だった。この人の話を聞いていると、受講料の15万円もさほど高くないような気がしてきた。

 20分くらい経ったであろうか。私はミドルステージの申込書に名前を記入していた。受講料15万は貯金から出そう。言い忘れていたが、私はベーシックステージに出る受講料7万円を一週間以内に出さなければならないということで、紹介者に立て替えてもらっていた。だからそれも含めると22万円、結構痛い。でも決めてしまったからには後に引けない。紹介者は、「そんなに早くミドルをやるとは思わなかった」と少々驚いていた。

 インタビューも終わり、ミドルステージ参加も決めたある日、ベーシックステージのグループ分けで私が同じグループに誘い込んだ「かわいい子」が、ミドルステージをやらないというので、「一緒にやろうよ」と説得に行った。

 とある駅前の喫茶店でその子と話をした。私の説得に彼女は頑なだった。
「私は消極的な人も好きよ」「あれは本当に仕方なく出たの。今でも後悔してる」
「でも、あのとき(紹介者が前にいたとき)泣いてたじゃないか」
「あれは、本当にびっくりしたから」
 話は平行線のままかみ合わなかった。そして、
「それが君のプログラムなんだよ」。思わずセミナー用語が出た。
「絶対そう言うと思ったわ」

 ・・・私は説得をあきらめた。第1段階を出たての人間には、彼女を引っ張り込むだけの説得力に欠けるのかも知れないとも思った。ま、彼女がいなきゃならないわけでもないし、仕方ないか、とあきらめることにした。

 ミドルステージは1ヶ月後だ。