第1段階 その4

 2日目も3日目も、実習前に希望者のシェア(みんなの前で話すこと)があったが、たれが何を話したのかはまったく覚えていないが、自分の心境の変化や周りの人との関係が変わったようだと話す人が多かったような気がする。

 この日の実習に「あなたが今までで一番辛かったこと」をシェアするものがあった。これは全員が話さねばならない。最初は全員が一人の話を聞いていたが、効率が悪いのか、途中からは2つのグループに分かれて行われた。これも誰が何を話していたかは忘れたが、ひとつ覚えているのは、「いじめ」にあった人が少なからずいることだった。

 その後は、知っている人も多いかと思うが、「選択の実習」というものをした。フォークダンスをするように参加者が2つの同心円になり、それぞれの円が一人ずつ逆方向にずれていき、対面した相手に4つの選択をするものだった。選択は指で示す。1本は「無視」、2本は「見つめ合う」、3本は「握手」、4本は「抱擁」。
 何回か繰り返して、また新しい相手となって「選択」かと思ったときに、予想に反して何もせずにもう一人分横に行くように言われた。そして先ほど選択をすると思っていた相手の方を見るように言われ、「もし、世界が明日終わったら、その人とは二度と会えなくなるのです」というような、「一期一会」みたいなことを言われたと記憶している。そのあとは、ほとんどみんなが「4本」しか出さなくなった。

 選択の実習が終わって、今度は、「ここからあそこまで一人ずつ進んでください。ただし一人たりとも同じ方法で行ってはいけません」。参加者は40人くらいいたが、踊りながら行く者や、ウサギ跳びで行く者、いろんなバリエーションがあるものだ。参加者の後に、アシスタントやS氏、そして音響担当のZ氏らも、彼らオリジナルの方法でゴールにたどり着いた。全員が終わった後でS氏、「目的を果たすための手段はいくらでもあるのです」。なるほどね、それが言いたかったわけだ。
 そのあと、グループごとに別れ、コミットメント(約束)が行われた。ベーシックステージが終わってから一週間以内に、何かをすることをグループのメンバーに約束するというものだ。私は「片思いの相手に告白する」というコミットをした。アシスタントの嬉しそうな顔が印象的だった。

 すべての実習を終え、最後のまとめとなった。全員が手をつなぎ、目を閉じた。「合図するまで決して目を開けないでください。目を開けたら、あなたの今までの努力がすべて無になります」。そして、「周りをかたづけたりするので音がしますが、気にしないように」と、この2点について念を押して言われた。
 この3日間やってきたことを、S氏が振り返ってみんなに語りかける。精神的にも肉体的にも結構ハードだったためか、いろいろなことが強烈に頭の中に残っており、それがS氏の話によって再びよみがえってくる。確かに周りで音がしたような気はしたが、BGMとS氏の話、それに呼応して自分の心中に去来する様々な思いのためにあまり気にならない。

 「紹介者のことを思い出してください」とS氏。確かに紹介者がいなければ、このような経験をすることもなかった。そのことを思うと、胸が熱くなった。それと同時に、この後の展開を読んだ。目の前に紹介者の写真でも置いてあって、それに語りかけるとか、手紙を書くとか、そういうことかなと思っていた。
 「目を開けてください」。その言葉にしたがって目を開けると、何と目の前に紹介者が花を持って立っていた。これには心底びっくりした。言葉が出ないというのはこのことだ。他の参加者も一様に驚いている。それについで、ワーッという歓声。100人以上はいるようだ。
 声の主は、このセミナーのハイステージ(第3段階)まで終えた「卒業生」らしい。かくして、私の参加したベーシックステージ(第1段階)は、にぎやかな中を盛大に終了することになった。何人かの参加者が、紹介者とともに前に立ち、話をした。私も紹介者と一緒に、みんなの前に立った。
 この集団の中には、ミドルステージ(第2段階)を終えてきたばかりという人たちもいて、「ミドルステージはいいよ、みんなおいで」というパフォーマンスをして見せた。

 「終了式」も終わり、帰途についた。本当は打ち上げがあったのだが、翌日からの仕事があるので出ずに帰った。途中、紹介者とどのような話をしたかはまったく覚えていない。ただ、「普通の生活では絶対に経験できないハイな状態にあったな」と、振り返って思った。何日後かに「インタビュー」というのが残ってはいるが、とりあえず終わった。疲労困憊とはこのことだ。打ち上げに出なかったのも正解だと思う。