第1段階 その2

 グループ分けも終わり、アシスタントがついたところで、本格的な「実習」に入る。グループごとにVの字になって座り、その中に1人が立つ。将来の夢や希望を語り、他のメンバーが「それを実現するにはどんなことが必要ですか?」などと質問し、立っている人がまたそれに答えるという繰り返し。はっきり言って退屈だ。
 それから印象に残っているのが、二人どうし向き合って座り、相手の外見だけから浮かんできたイメージをいくつも言い合うという実習もあった。当たっているのもあり、外れているのもあり。このときパートナーとなった女性からは、「年下の恋人がいるようだ」といわれたが、いないんだなあ、これが(笑)。

 実習の合間にはS氏の講義もある。これは一番最初の段階で話していたと思うが、人間には外界からの様々な攻撃に対して心を守る防衛システムがあり、これは無意識に作動するのだそうで、このセミナーではそれを「プログラム」という。たとえば、小さい頃に泣いているのを厳しく叱られたという経験があると、無意識にプログラムが作動して感情を押し殺したりしてしまうらしい。このベーシックステージでは、自分自身が持っている「プログラム」に「気づく」のが目的だとも話していた。このS氏、かなり話術に長けているようで、ときに参加者の話を聞きながら、やさしく、且つメリハリのある口調で説明していく。みんな自然とS氏の話に引き込まれていく。時間が過ぎるのがとても早い。

 この日最後の実習は、「赤黒ゲーム」。「このゲームの目的は、勝つことです」とS氏。2つのグループに分かれて、それぞれ別室で赤玉、黒玉を出すのを5回やり、その組み合わせで得点が得られるのだが、こんな感じだと思った。

グループA −1 −2 +2 +1
グループB −1 +2 −2 +1

 冷静な方は、「なーんだ、『囚人のジレンマ』じゃないか」と思うだろうが、10年前の話だ。そんなことを知っている人も少ない。それにいくつもの実習とS氏の講義をたくさん聞いているうちに次第と疲れていくので、そこまで頭は回らない。
 2チームに別れたあと、「とりあえず赤を出しとけば大崩れはしないんじゃないか」「いや黒を出して様子を探ってみよう」とか言って、結局5回戦が終わったときの得点は両チームともマイナスだった。
 ここでS氏、「このゲームは勝つことだと言ったはずです」。
 「でも、赤を出さない限り高得点にはならないし、黒を出したら相手の思うツボだし・・・」
 「このゲームの目的は『相手に勝つ』ことじゃない」と、先ほどしゃべった口上を録音したテープを再生した。「なぜ、相手を信じて黒を出し続けなかったのですか?」そこでみんなハッとする。なるほどお互いが黒を出し続ければ、5回戦で双方5点、というわけだ。

 この日はこれで終わり。この日は宿題が出された。セミナーを受けて、今の思いを誰かに伝えること。私は帰宅後、父にそれを話した。私の紹介者からはあとで、「私に言ってくれると思って待っていたのに」と怒られた(笑)。
 セミナーは明日もある。この日はさっさと寝てしまった。