セミナー解説 その5

 「○○時間ゲーム」が終わったところで、最初のミーティングがある。それまでに勧誘に成功した人が、喜々として「塗り絵」のマスを埋める。
 最初のミーティングで、すでに勧誘に成功した「勝者」と、できなかった「敗者」にくっきりと分けられる。トレーナーからは、「勝者」に対する賛辞は出るが、「敗者」への慰め、気遣いなどは一切ない。あるのは屈辱だけだ。
 第3段階では勧誘がすべて、勧誘こそ正義ということがここで鮮明に映し出される。結果を出さない者はセミナーで得たことの実践ができていないということになる。まさに成果主義そのものであり、一般企業の営業と何ら変わりがない。

 体験記編の「終わりに」でも触れたが、セミナーのコースの一つと銘打ち、勧誘させるのは、セミナー側にとって実に都合がいい。
 試算してみよう。セミナーのそれぞれの段階は、原則として月1〜2回行われる。第1・第2段階の受講料をそれぞれ7万・15万と設定する。
 第3段階の受講生は20人前後。彼らが勧誘してくる人数の平均はだいたい一人あたり4人くらいだろう。すると、

 <第3段階の20人が勧誘する人数> 20人×4人=80人
 【第1段階】80人×7万=560万
 <第1段階の約3割、25人が第2段階に進むとする>
 【第2段階】25人×15万=375万
 【合計】560万+375万=935万

 これだけの金が毎月セミナー会社に転がり込むことになる。営業経費はゼロ、利益率はかなりの高率になると思われる。
 第2段階から第3段階は金銭的にも負担が少なく、またセミナーへの帰属意識やセミナーの価値観などをたたき込まれているのと、仲間意識が高揚していることもあり、25人中20くらいが進むことになるだろう。その受講生がまた80人を第1段階に連れてきて・・・と、あたかも無限ループのように続き、累積黒字はどんどん膨らんでいく。

 その上、セミナーはマルチ商法のように、成功者に金銭的なキックバックをすることすらない。成功者に与えられるのは、勧誘に成功した喜びと勝者の栄誉、そして勧誘された側が第1段階で感動することと感謝される喜び、これだけで十分なのだ。そのような価値観を植え付けられているのだから。これはもう、自己啓発の仮面をかぶった一種の労働搾取とは言えないだろうか。

 ただしこれらの試算は、1つの大前提がある。もうおわかりだろう。第3段階の受講生がノルマを果たすことが必要だ。個人のノルマよりも全体のノルマを重視するのもこのためだ。個人が目標を果たすよりも、総体としていくらセミナーの収益になるかの方が、営業的に重要だからだ。
 だからセミナーは第3段階受講者の尻を叩く。勝者を持ち上げ、もっと勧誘するように促し、敗者にはケアすることよりも屈辱を与え、自分も勝者側に行きたいと念じさせ、さらなる勧誘に向かわせる。