セミナー解説 その6

 さて、勧誘のパターンというのは大方が対面式だ。そこに卒業生などのサポートがつく場合もあるが、勧誘される側にとっては他人なので、あくまでサポートしかできない。

 人にものを勧めるということは、相手にその「良さ」を話せなければ伝わらない。ということは、内容はルールにより話せなくとも、セミナーの価値観などは説明できなければならない。自ら説明するというのは、自分の中の知識を再確認する作用もある。つまりセミナーに勧誘するということは、人に伝えるのと同時に、自分の中にある「セミナーの価値観」を確立、つまり自己定着化されていくことになる。

 そして勧誘に成功した場合は、その「価値観」にますます自信を深めていく。したがって、勧誘に成功した者ほど、自己の中に植え付けられた「セミナーの価値観」を揺るぎないものとし、セミナーへの帰属意識が高まっていくことになる。
 セミナーが、勝者のみを持ち上げ、敗者に屈辱を与えるのにはこういった理由がある。勧誘に成功する者ほど、セミナーの思い通りに操れる。敗者の屈辱が、「次は勝者に」という意欲をますます駆り立てる。そして、「敗者」が「勝者」になったときに得られる快感が大きければ大きいほど、その後の勧誘活動にいっそう身が入る。

 そして、結果的に全体のノルマの勧誘が成功した場合は、「達成」となり、第3段階は成功という結末になる。「達成」ができなかった場合もあるが、体験記中にもあるとおり、辛口の人には、「卒業式」も見せしめだなどという冷たい見方をされる。セミナーの価値観とは恐ろしいものだ。努力の経過も見ずに、結果だけしか見ないのだから。

 わたしは体験記編の中で、「第1・第2段階の心理体験と第3段階の勧誘が結びつかない」と申し上げたが、営業戦略と見ればぴたりと一致する。第1段階で「自分と異なる『価値観』があること」に気づかせ、今後の種蒔きをし、第2段階でセミナーへの帰属意識を高めて、過去を清算させて白紙になったところでセミナーの「人工的価値観」を植え付け、「勧誘マシーン」としての人格ができたところで第3段階でノルマを決めさせ「営業」させる。

 ここまで読んでくださった方はすでにお気づきであろう。第1段階・第2段階は、受講者を金づるにする第3段階にすべて続いているのだ。しかも前稿で申し上げたとおり、勧誘に動くのはあくまでも受講者であってセミナー側が雇っている者ではないため、営業経費はゼロ。濡れ手に粟のシステムが確立されている。

 しかし、セミナーは以前のような隆盛はない。この不況で数十万の金を内容もよくわからないセミナーにつぎ込むことができなくなっているのも理由の1つだが、消費者が賢くなっていることもあるだろう。自己啓発とは他人から与えられるのではなく、自分で得る者だということを、人々が悟ってきた結果とも言える。かくいう私も、セミナー受講後に出会った様々なことから、現在の人生観を得ている。それはセミナーによって与えられたものではないことだけは、胸を張って言うことができる。

 形あるものはいつかは壊れると言われるが、人工的に植え付けられた価値観もいつかは醒めるときが来る。セミナーを受けた経験がない人は、この文章からそれを読みとっていただき、もしも今後勧誘にあったときには、強い意志を持ってそれをはねのけてほしい。すでにセミナーを受けた人は、今まで自分が支配されてきた「価値観」から脱却するための手がかりにしていただければ幸いだ。

 6編におよぶ長文を読んでくださり、ありがとうございました。