はじめに

 最近図書館で興味深い本を見つけた。マインドコントロールに関する本だった。面白かったので延べ四時間くらいで読破してしまったのだが、この本を面白い、興味深いと思ったのにはわけがある。何を隠そう、この私も過去にこれと似た体験をことがあるからだ。
 「マインドコントロール」という言葉は、山崎浩子の統一教会脱会の記者会見時に使われて一般的になったのだが、僕の場合は宗教でなく、「自己啓発セミナー」と呼ばれるものを受ける過程でそうなっていった。

 自己啓発セミナー。みなさんも経験のある人が少なからずいると思う。知人や職場の人がある日を境に人格が変わったように朗らかで積極的になり、「すばらしい体験をした」とか「自分の殻を破れる」とか言って「あなたも一緒にやろう」と執拗に勧誘してくる、という体験をしたことがないだろうか。そう、私もその「勧誘する側」に立ったことがあるのだ。

 セミナーには「内容を他人に話してはならない」というルールがあるのだが、以下の理由を根拠に、私の体験を公開することとする。

・セミナー会社名を特定していないこと。
・セミナー終了から約10年の時間が経過し、各社のセミナーについても変貌が予想され、必ずしも私の体験したとおりの実習メニューで進行しているとは限らないこと。
・本稿はあくまでも自分の体験を記録したものであり、自己啓発セミナーを誹謗・中傷および営業妨害を目的とするものではないこと。
・表現の自由は、日本国憲法第二十一条において保障されていること。

 さすがに10年も前のことになると、断片的な記憶しか残っていないのだが、それをつなぎ合わせて書いてみようと思う。
 文章はできるだけ客観的にするようにつとめているが、話の展開上必要な場合は適宜主観を交えている。登場人物も可能な限り匿名とさせていただいた。ただし、セミナーの最終段階については、自分の日常生活がベースとなるので、どうしても主観的にならざるを得ず、その点はご勘弁願いたい。
 この文章中、私はセミナーを否定も肯定もしないように努めて書いているつもりだ。セミナーについてのご判断は読者の方々にゆだねたいと思っている。ただひとつ、この文章を読んでセミナーへの参加を希望された方がいたとしても、私を「紹介者」にすることはご勘弁いただきたい。文章については判断の余地を皆さんに残すために、可能な限り客観性を持たせてはいるが、勧誘の片棒を担ぐことだけはご免こうむりたい。「勧誘」については、今も疑問を少なからず持っているからだ。

 この文章が、閉鎖的で中身が見えにくい自己啓発セミナーという世界について理解する一助となれば幸いです。