セミナー解説 その1

 自己啓発セミナーの内容については、体験記の中でおおかたわかっていただけたと思う。今度は、その体験に基づく考察をしてみたいと思う。

 私が思うに、自己啓発セミナーとは、一言でいえば「人工的な価値観を植え付けるところ」。その「価値観」とは、「積極性」だったり「可能性」だったりする。
 植え付け方は計算されている。まず第1段階で「自分とは違う『価値観』がある」ということを気づかると同時に、これ以降の段階の下地づくりも巧妙に織り交ぜられている。言うなれば、次の段階への「種蒔き」だ。

 まず、「気づき」について。「赤黒ゲーム」で、「勝つ」という概念に「相手と共同して、ともに高得点を挙げる」という別の解釈をすることによって、「違う『価値観』があること」を気づかせる。
 セミナー終盤の「A地点からB地点まで、全員が違う方法で到達する」実習では、「目的を果たす手段はいくらでもある」ということを象徴化し、手段が無数にあるということ、転じて可能性は無限大であるという「発見」をさせている。

 そして、「今後の下地づくり」。「選択の実習」では、事実上指4本、つまり抱擁しか選択肢がなくなる。これも巧妙な誘導であり、抱擁という非日常的な行為と、4本という「最高の選択」を他人が自分に返してくれることにより、セミナー世界にのめり込む、つまりセミナーへの帰属意識の下地を作っていると言える。
 最後の「まとめ」では、「紹介者」にスポットを当てる。紹介者と自分の結びつきを思い起こさせ、感謝の念を抱かせることによって勧誘行為を正当化させ、第3段階で自分自身が勧誘する側に回ったときに向けての下地づくりとしているわけだ。また、目を開けたら紹介者が立っているという状況も、紹介者への感謝をより鮮明な記憶として残しておくための凝った演出であると同時に、勧誘した側にとっては、相手が感動と感謝をしてくれるという、次の勧誘への意欲高揚にも役立っている。

 こうなると俄然重要になってくるのが、集団実習でないためについ見落とされがちな「インタビュー」だ。第1段階でこれほどの「気づき」と、今後の下地を蒔いたのだから、それが醒めないうちになるべく早く第2段階に送り込まないとならないからだ。
 インタビュアーに「卒業生」を充てる理由もそこにある。彼らは言うなれば、「勧誘のプロ」だ。その人達にかかったら、第1段階の興奮冷めやらない受講生など、簡単に引っかかってしまう。それに参加者達は、最終日の「まとめ」で、紹介者からの勧誘を自己の中で正当化させているので、それが醒めないうちに第2段階の勧誘を受けても、さほど心理的抵抗を感じないようになっている。事実、私の第1段階での「仲間」も、直後とはいかないまでも、第1段階からあまり時間が経過しないうちに第2段階を受けた者が数多くいた。
 第2段階の受講料は15万という大金だ。そのためセミナー側も、卒業生の中でも勧誘上手な者を充てていたか、もしくは訓練を施していることは容易に想像できる。

 第2段階の解説は次の文章で。